自覚したのは最近のことだ。
「あれ、私ってこの手の話ばっかり観てない?」
マフィアのボス、麻薬の製造者、シリアルキラー、ストーカー殺人鬼——普通に考えたら関わりたくない人たちの話を、なぜかリラックスタイムに好んで観ている。しかも「思い出せないほど」観ている。
誰にでも刺さるとは言わないけれど、同じ沼の人はきっといる。そう思って書いてみることにした。
まず元祖から——ザ・ソプラノズ
このジャンルの出発点はここだと思っている。ザ・ソプラノズ(The Sopranos)、1999年スタートの超古典だ。
ニュージャージーを仕切るマフィアのボス、トニー・ソプラノが主人公。本業は組織の運営(つまり犯罪)なのに、精神科医のカウンセリングに通って不安障害と戦っている。家族との関係に悩み、部下の裏切りに傷つき、なぜか憎めない。
「悪人なのに感情移入してしまう」ドラマの元祖がここにある。今のドラマが当たり前のようにやっている「共感できる悪役」の文法は、ほぼ全部ここから来ていると思う。
善人が転落していく恐怖——ブレイキング・バッド
「一番好きなドラマは?」と聞かれたら、たぶんこれを答える。
高校の化学教師ウォルター・ホワイトが、ガンの告知をきっかけに麻薬製造に踏み込む話。最初は「家族のために」という動機だったはずなのに、気づいたら本人が欲と支配欲の塊になっていく。
善人がどこで道を踏み外すか——その瞬間の描き方が、あまりにもリアルで怖い。「そのくらいならわかる」と思いながら見ていると、気づいたら引き返せないところまで来ている。
最高にジャンキーなストーリーだと思う。エミー賞16回受賞は伊達じゃない。
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悪人が普通に暮らしてる怖さ——デクスター
こちらはまた違う種類の怖さだ。
主人公のデクスターは、マイアミ警察の血痕分析官。昼間は同僚たちと笑いながら働いて、夜はシリアルキラーとして活動している。しかも「悪人だけを殺す」という独自ルールを持っていて、なぜかそのルールに謎の安心感を覚えてしまう。
「この人、絶対にいい人じゃないのになぜ応援してるんだろう」と思いながら観る感覚、わかる人にはわかると思う。
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隣にいそうな怖さ——YOU
このジャンルの中で一番「現代的な怖さ」があるのがYOUだと思う。
主人公のジョー・ゴールドバーグは、ニューヨークの本屋で働くイケメン。穏やかで知的で、一緒に本の話をしたら楽しそうな人だ。ただし、気に入った相手のためならサラッと人を消す。
ブレバドやデクスターと違って、舞台が現代の都市で、主人公が普通に街にいそうな人物なのがいっそう不気味だ。SNSや位置情報を使った描写も生々しくて、観終わった後しばらく周囲が気になってしまう。
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本筋より好きかもしれない——ベター・コール・ソウル
ブレイキング・バッドの外伝、と紹介されることが多いけれど、私はむしろ本筋より好きかもしれない。
主人公はブレバドでもおなじみ、詐欺師あがりの弁護士ジミー・マクギル(のちのソウル・グッドマン)。嘘とハッタリと愛嬌で生きてきた男が、どこかで道を誤って「ソウル・グッドマン」になっていく過程を描く。
ブレバドが「善人の転落」なら、ベター・コール・ソウルは「もともとグレーな人間が、それでも踏みとどまろうとした話」。その繊細さが、何度観ても刺さる。
脇を固めるキャラクターたちも全員濃くて、特にマイク・エルマントラウトとグス・フリングの関係は独立した映画になれるレベルだと思っている。
ブレバドを観たことがある人には、ぜひこちらも。というかこちらから観てもいいくらい。
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この沼、たぶん底がない
5作品書いてみたけど、正直まだある。思い出せないほど観てきたと書いたのは嘘じゃなくて、タイトルが出てこないものも含めると相当な数になる。
なぜこの手のドラマが止まらないのか、自分なりに考えてみると——たぶん、「普通の人間の中にある暗い部分を、安全な距離で見られるから」じゃないかと思っている。
現実では関わりたくない人たちが、画面の中で生き生きと動いている。共感してはいけないと思いながら、どこかで感情移入している。その矛盾がクセになるのかもしれない。
変人・変態・殺人鬼のドラマが好きな方、ぜひ語りましょう。
よくある質問
Q. どれから観ればいいですか?
まずはNetflixで気軽に始めるならブレイキング・バッドかYOUがおすすめです。王道から入りたいならザ・ソプラノズですが、古さを感じさせない面白さがあります。
Q. グロ・暴力描写はきつめですか?
どれも多少あります。特にデクスターは血の描写が多め。苦手な方はYOUから入るのが比較的マイルドです。
Q. 続編や関連作品はありますか?
デクスターは2021年に続編「デクスター:ニュー・ブラッド」があります。ブレイキング・バッドの外伝「ベター・コール・ソウル」は、本筋より好きという声も多い名作です。