白紙のノートの上に置かれた万年筆

ある日、会社から「360度評価の評価者に選ばれました」という連絡が来た。

評価される側は何度か経験があるけれど、評価する側に回るのは初めてだった。最初は「え、私が?」という気持ちになったが、よく考えると自分がそういうポジションになってきたということなのだろうとも思った。


評価することの難しさ

実際にやってみて、評価することの難しさを初めて実感した。

評価される側のときは「もっとちゃんと見てほしい」「あの部分をわかってほしい」と思っていたのに、評価する立場になると、一人ひとりのことをどこまで正確に把握できているか自信がなくなってくる。

日ごろ一緒に仕事している相手でも、見えていない場面や成果があるはずだ。それを判断して言葉にする責任の重さを、想像以上に感じた。


厳しいことは、結局書けなかった

評価シートのコメント欄を前に、思った以上に時間をかけて言葉を考えた。

そして白状すると、小心者の私は、厳しい一言も、辛い点も、結局まったく付けられなかった。改善点の欄の前で何度もカーソルが止まって、打っては消し、打っては消し。最後に残ったのは、角の取れた言葉ばかりだった。

誤解のないように書いておくと、辛辣な視点を持たないわけではない。許しがたい発言、態度、仕事ぶり——心の中で厳しい目を向けることは、よくある。ただ、それを表現することが、ほぼない。

好かれたいわけでも、日和見なわけでもない。言いたくない。触れたくない。私は、そういう性分なのだ。

もっとも、そもそも今回の対象者が、文句のつけようのない人格者だったのだ。粗を探す方が難しい。ラッキーだったと思う。


匿名の誰かが、誰かを裁くこと

360度評価では、評価者の名前が対象者に伝わることは決してない。匿名だから本音が書ける、という制度設計なのだと思う。

でも、やってみて思った。匿名の誰かが誰かを裁くのは、フェアじゃない。

名乗って言えないことを、名前を伏せてなら書ける——それが「率直なフィードバック」と呼ばれることに、どこか引っかかりが残った。私が厳しいことを書けなかったのは、小心者だからでもあるけれど、半分はこの引っかかりのせいだったような気もする。


回ってきた意味を考える

評価者に選ばれるということは、ある程度信頼されているということでもある。選んだ人事部もしくは上司が、この人は公平にフィードバックできると判断した、ということだ。

だとしたら、きちんとやることがその期待に応えることだと思った。

評価するということは、自分の仕事への姿勢や視点が問われる場でもある。やってみてよかった。次は、もう少し上手くできるかもしれない。


よくある質問

Q. 360度評価とは何ですか?

上司だけでなく、同僚・部下・取引先など複数の立場からフィードバックを集める評価制度です。多角的な視点で個人の強みや改善点を把握することを目的とします。

Q. 360度評価はいつ頃からある制度ですか?

意外と歴史は古く、原型は1930〜40年代のドイツ軍の将校選抜で使われた多面評価と言われています。企業では1950年代にアメリカのエッソ社が導入し、1990年代に米国で広く普及。日本には欧米から入ってきて、1990年代以降に注目されるようになりました。

Q. 評価者に選ばれたらどうすればいいですか?

客観的かつ誠実に書くことが基本です。感情的にならず、具体的なエピソードをもとにした観察を書くと説得力が増します。