雪の森に沈む戦国の城(黒牢城のイメージ)

映画『黒牢城』を観てきました。米澤穂信の直木賞受賞作が原作です。

茶人・荒木村重の物語、と言われるとなんだか雅やかに聞こえるけれど、そもそもはざっくり言って戦国の世の籠城の話。じわじわ追い詰められていく、暗くて重い一年の物語でした。


どんな話なのか

天正6年(1578年)、織田信長に叛旗を翻した荒木村重は、有岡城に立て籠もります。説得に訪れた信長方の智将・黒田官兵衛を、村重は城の地下の土牢に幽閉してしまう。

ところが籠城のさなか、城内では次々と不可解な事件が起きる。動揺する家臣や民をなだめるため、村重は牢の底にいる官兵衛に謎解きを求める——という、籠城ミステリー。冬・春・夏・秋とめぐる一年のあいだに、城も、村重の心も、少しずつ崩れていきます。


シェイクスピアを読んだあとの感情

観終わったあとに残ったのは、シェイクスピアを読んだときのような、割り切れない感情でした。

主君に叛いた武将が城に籠もり、外は敵に囲まれ、内では人が死んでいく。誰が正しくて誰が悪いのか、どこで間違えたのか、すっきりとは決められない。善人でも悪人でもない人間が、引き返せないところまで来てしまって、それでも生きている。観ながら「これはマクベスだ」と思ったけれど、マクベスを読んだあとと同じで、答えはぜんぜん出ないのです。

その、もやもやと胸に残る感じが、私はきらいではありません。


最期、茶人になったというのが好き

いちばん好きなのは、村重のその後です。

城は落ち、一族も家臣も失って、それでも村重は生き延びる。そして晩年は、堺で「道薫」と名乗る一人の茶人として暮らした。後世には利休七哲の一人にも数えられる。あれだけのことがあって、最後にたどり着いたのが、武将の名でも謀叛人の名でもなく、茶人の号だったというのが、なんだかとてもいい。

結局、無心に茶を点てる——。

すべてを抱えたまま、それでも静かにお茶に向かうしかなかったのだとしたら、そこにいちばん人間が出ている気がします。


作品情報

※ネタバレを避けた感想です。