7月に温風至、8月に涼風至を書いた。今度は天地始粛(てんちはじめてさむし)。処暑の次候で、2026年は8月28日から9月1日まで。
天地の暑さが、ようやく鎮まり始めるころ。「粛」はしずまる、あらたまる、という字だ。
久しぶりのお稽古の日が、ちょうどこの候に重なった。
灰を整える人がお休みだった
風炉は電熱だった。いつも灰を整えてくれる人がお休みだったから。
お軸は「白雲抱幽石(はくうんゆうせきをいだく)」。白い雲が、人里離れた奥深い岩をふわりと抱いている。
幽石の幽は、奥深い、ひっそりしたという字。人の来ない山の奥にある岩のことだ。
寒山という人の詩に出てくる言葉らしい。世間との付き合いをやめて、深い山にひとりで住んだ人。夏によく掛かる言葉だ。
花は、お稽古にいらした方が入れてくださった朝顔。
点前は茶箱の卯の花と、茶籠の色紙点(しきしだて)。どちらも夏のもので、外へ持ち出すための道具だ。夏が仕舞われていく候に、夏の点前を二つ。
水屋は、二人がてんてこ舞いくらいでちょうどいい
その日は水屋の手数が足りなくて、あまりにバタバタしていた。
写真も、お菓子の銘も、お茶の銘も、何ひとつ残せなかった。残念。
水屋仕事ってやることがいっぱいある。でも人が多いと動けない。せいぜい二人がてんてこ舞い程度じゃないと稼働しない。
だから水屋に座り込まれたりすると、実に邪魔なので、出ていってって言いたくなる(笑)。
木目は、人に刺さってはいけない
大学生の新人さんが来ていた。飲み込みが早くて、先生の言うとおりにすぐ盆略点前をやっていた。
その方が干菓子を出してくれたとき、盆を縦に運んできた。木目が、客役の私にまっすぐ刺さっている。
それはエラーだよ、と教えた。
木目は人に対して平行にする。菓子盆に限らない。棚も同じ。点前座でも同じ。そこに例外は無い。
木目が人に刺さっているのはダメで、それは客も亭主も同じ。
その日に教えたのは、たぶんそれだけだ。
言わなかったこと
新人さんは「何かやることありませんか?」と声をかけてきた。大丈夫よ、と返した。そうしたら帰って行った。
水屋はすすんでやらないとな〜〜って思う。
でも、それは私が言うことじゃない。
せっかくの久しぶりのお稽古だったのに、多忙過ぎて全く味わえなかった。
薄茶点前だけだったから、ちょっと物足りない。やっぱり濃茶と生菓子を頂きたいな〜って思う。
白い雲が、静かな岩を抱いている。そういうお軸の下で、私はずっとバタバタしていた。
残ったのは、その言葉だけ。
今晩は、エアコン無しで眠れそう。
よくある質問
Q. 天地始粛はいつですか?
二十四節気の処暑を三つに分けた真ん中、次候にあたります。2026年は8月28日から9月1日まで。「粛」はしずまる、あらたまる、という字ですよ。
Q. お盆やお棚の木目は、どちら向きに置くのですか?
人に対して平行にします。木目が人にまっすぐ向かっていると「刺さる」と言って嫌います。菓子盆でも棚でも点前座でも同じで、ここに例外はありません。客に対しても、亭主に対しても同じですよ。
Q. 茶箱の卯の花と、茶籠の色紙点はどう違うのですか?
卯の花は茶箱の点前でいちばん簡素なもので、茶箱を習うときに最初にやります。幕末の十一代玄々斎が、雪・月・花の三つのあとに加えたものです。色紙点は、道具と古帛紗を色紙を散らしたように配ることから、その名がつきました。作ったのは玄々斎の曾孫にあたる十四代淡々斎で、こちらのほうがずっと新しい点前です。